ゴルフジャーナリスト・舩越 園子
「フーパーファミリーが３ホールのゴルフコースをクリエイト！」
そんな見出しの記事を目にしたのは、３月半ば頃だった。
既に新型コロナウイルス感染拡大の影響が世界のゴルフ界にも広がり、４月に開催されるはずだったメジャー第１戦のマスターズが延期され、５月上旬までの米ツアー全大会が中止。メジャー第２戦の全米プロも延期が発表された直後だった。
◆数年前から思って
そんな最悪のタイミングで新しくゴルフ場を開場するなんて、一体何を考えているのか。
どこかの大富豪があり余るほどの財産にモノを言わせ、話題性を狙っているのではないかと、何となく否定的な想像を膨らませながら、その記事を読み進めていくと、その内容は、全く異なる、明るく楽しいものだった。
「フーパーファミリー」は、大富豪などではなく、カナダで平均的な生活を営む「フーパー家」のことだった。父、母、１男１女の４人家族。
フーパー家は代々、近郊のゴルフ場のコース管理の責任者を務め、３代目のジェイソンさんもその職を引き継いだのだが、今はゴルフ場の芝草を販売する営業の仕事をしている。
ジェイソンさんの日課は、毎朝、犬を連れて家の周りの空き地を散歩すること。
「空き地は広大で適度にアップダウンもある。そこを散歩しているうちに、ここに３ホールぐらいゴルフコースを造れそうだなあと数年前から思っていた」
新型コロナウイルスの猛威が押し寄せ、カナダの学校が休校になり、働く人々の大半が在宅勤務になった時、ジェイソンさんは「今こそ、あの空き地にゴルフコースを造るべき時だ」と思い立ち、即行動を起こした。
◆手造りの３ホール
昔の職場の仲間や友人知人に協力を仰ぎ、泥を掘るためのシャベルや、草を刈るための道具、そして、ピンフラッグやカップなどもかき集め、文字通りの「手造りの３ホールのゴルフコース」を造り上げたそうだ。
もちろん、テレビのゴルフ中継で見るような、緑が美しい、近代的なゴルフコースとは、全く異次元のゴルフコースだ。
フェアウエーは、土と枯れ草だけが続く茶色っぽい道。ちょっとした高台をティーグラウンドに見立て、高台が見当たらないホールは、線を引いて「ここがティーグラウンド」と示した。
泥と草を寄せ集めて囲み、その真ん中にピンフラッグを立てて「ここがグリーン」。ラフやバンカー、池やクリークなどは、あえて造らずとも、天然のくぼみや木々がハザードの役割を十分に果たしてくれるという。
「１番ホール：４０～４８ヤード。賭けに出れば、得られるものも大きいギャンブルホール」
「２番ホール：３７ヤード。このコースの中で最高のグリーンを擁する」
３番ホールは「５０ヤード」と記した上で、「祈り」を示す絵文字が添えられている。その絵文字は「とても難しい」を意味しているのか、それとも「運不運は神のみぞ知る」というほどのイチかバチかのショットが要求されることを伝えようとしているのだろうか。
◆素晴らしき財産
写真を眺めながら、３ホールの解説を読むだけでも、いろんな想像が広がってくる。
ジェイソンさんと２人の子どもたちが楽しそうにプレーしている写真も添えられていた。３人のいでたちは、当たり前だが、現代人。
だが、コースの方は、あたかもゴルフらしきものが世界のあちらこちらで始められた、はるか昔の原始的なコースのごとく見えてくるから面白い。
いにしえの時代、人々は想像力を働かせ、地面に線を引いたり、天然の動物の穴をカップに見立てたりしながら、ゴルフというゲームを楽しみ、競うための場と機会をクリエイトした。
だからこそ、現代を生きる私たちには、ゴルフという素晴らしき財産が引き継がれてきた。
世の中が混沌（こんとん）としている今こそ、私たち現代人が未来のために、想像力と創造力を働かせ、自分に「できること」をやるべきときだ。
（時事通信社「金融財政ビジネス」2020年4月6日号より）
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April 20, 2020 at 07:43AM
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コロナ危機の中、家の周りにゴルフコースを造ったカナダ人一家【スポーツコラム】：時事ドットコム - 時事通信
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