パ・リーグ インサイト海老原悠
パ・リーグインサイト
2020年のNPBでは、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、開幕から無観客での試合開催が続いている。その影響で、5回終了時をはじめとした各球場でのファンを楽しませるための演出も軒並み省略されている。球団マスコットやチアリーディングチームのパフォーマンスを楽しんでいたファンにとっては、寂しい状況が続いていると言えそうだ。
その一方で、昨季までに比べて、個々の試合の所要時間が短くなっていることを実感しているファンもいることだろう。実際、6月26日の試合終了時点でのパ・リーグの平均試合時間は、9回までに決着がついた試合が3時間3分、延長戦を含めても3時間10分と、平均2時間台に迫ろうかという短さとなっている。
その理由としては、先述した球場演出の簡略化に加え、延長戦の最長イニングが昨季までの12回から10回に短縮されたことも挙げられる。また、長くとも延長10回までに試合が終わるということもあって、各チームが早めの継投策に切り替えるケースも増えており、その結果として、試合展開自体もスピーディになりやすくなっている。
ただ、より深い比較を行うためには、昨季までの試合時間と、それに付随した要素をあらためて確認してみることが不可欠だろう。今回は、NPB公式サイトに平均試合時間のデータが記録されている2009年以降の平均試合時間に加え、該当年度のリーグ全体の投球成績と打撃成績を紹介。今季と過去のシーズンの違いを確認していくとともに、変化が生じた理由についても探っていきたい。
まずは、2009年から2019年までの各シーズンにおける、9回で終了した試および、延長戦も含めた全試合の平均所要時間について、それぞれ紹介する。
(C)パ・リーグインサイト
極端な変化こそなかったが、2011年と2012年の2シーズンに関しては、延長戦も含めた試合時間がやや短くなっていたことがわかる。その理由としては、この2年間は東日本大震災による電力不足への対策として、試合開始から3時間30分が経過して以降は新たな延長イニングに入らないという、「3時間半ルール」と呼ばれた規則が導入されていたことが挙げられる。
この2シーズンにおいては9回で終了した試合と、延長戦も含めた試合時間に2分間しか差異がないところにも、「3時間半ルール」の効果が表れていたと言えよう。2020年も延長戦は最長10回までという短縮ルールが導入されているが、やはり延長戦との差異が小さくなることは間違いなさそうだ。同じく試合時間短縮を目的とした特別ルールが設けられた時期と比較してどのような結果が出るのか、注目してみる価値はあるだろう。
また、試合時間の長短は、投手戦と打撃戦がリーグ全体でどれだけの数になるか、すなわちリーグ内の投打の力関係にも影響される。そこで、2009年以降の各シーズンにおけるパ・リーグ全体の投球成績と、打撃成績をそれぞれ確認していきたい。ここでは、投手成績について見ていこう。
(C)パ・リーグインサイト
まず、リーグ平均の防御率が2点台という今では考えられないような数値となっていた2011年と、それに次ぐ数字だった2012年の数字に触れていきたい。この2シーズンは統一球導入の影響でリーグ全体の失点数が激減し、それに伴い各チームの防御率が大きく向上。打球が飛びにくい影響で打たせて取る投球が安定しやすかったこともあってか、この2年間は三振の数が他の年と比べて少なくなっていたのも特徴といえる。
実際の数字に目を向けても、2011年の試合時間は9回試合の平均時間、延長戦も含めた全試合の平均時間ともに、2009年以降では最短となる数字を記録。また、2012年も9回試合が2位タイ、全試合が単独2位とそれに次ぐ短さであり、失点、および球数を費やす三振数の減少が、試合時間の短縮にも波及していたと言える。
また、それとは逆に、2009年は防御率3.94、2010年は防御率3.94と、リーグ全体の防御率がそれぞれワースト1位と2位となっていた。また、2018年と2019年は2シーズン続けてリーグ平均の防御率が3.90と、それぞれワースト3位タイという数字であった。
打高投低の傾向が強かったこれらのシーズンの試合時間に目を向けてみると、2010年と2018年の試合時間は他の年と比べて特別長いというわけではなく、2009年はむしろ9回、全試合ともに、2012年に次ぐ短さとなっていた。先述の通り、リーグ全体の失点が少なかった2011年と2012年に関しては、試合時間にも明確な差異が見受けられた。だが、防御率や失点が多かったシーズンについては、投球内容が必ずしも試合時間に影響しているとは言えなさそうだ。
次に、同じく2009年から2019年における、パ・リーグ全体の打撃成績を以下に紹介していきたい。
(C)パ・リーグインサイト
特定のシーズンにおける投球成績が優れていたということは、同時に打者にとっては受難の時期であったことも意味する。2011年と2012年の2シーズンは本塁打が400本台と極端に少なく、安打数や出塁率も他の年と比べて明確に低くなっていた。投手にとっては積極的に打者と勝負しても打ち取れる可能性が高い環境であったことから、四球の数も大きく減少していた点も示唆的だ。
一方、出塁する数自体が少なくなるということもあってか、この2年間は併殺打の数も400個台と、他の年よりも少なくなっていた。また、2011年には該当期間内で最多の636盗塁が記録されており、各チームが少ないチャンスをいかに得点に結びつけるかに苦心していたことが、各種の数字からも読み取れる。
また、2018年と2019年の2年間は、MLBにおいてムーブメントを起こした「フライボール革命」の影響や、埼玉西武の強力打線が2年続けて猛威を振るったこともあり、本塁打のリーグ総数が850本台とかなり多くなっていた。先述したこの時期のリーグ全体の投手成績の悪化には、こういった要素も影響している可能性が高い。
一方、同じくリーグ全体の防御率が良くなかった2009年と2010年は、他の年に比べても打率と出塁率が高く、打数、打点、安打もそれぞれ多くなっているのに対し、併殺打の数も600個台と多くなっていた。打数の多さは試合時間の長さにもつながる要素だが、併殺打が多ければそれだけ試合の進行は早くなる。打高投低のわりに他の年と比べても平均の試合時間に大きな変化がなかった理由の一端は、併殺打の多さにもあるだろう。
このように、2011年と2012年の2シーズンに関しては明確に試合時間が短くなっていた。この2シーズンに関しては先述の通り、3時間半ルールと極端な投高打低の傾向の両方が合わさって、試合時間の面でも確かな変化が生まれたと言えそうだ。
また、試合時間がとりわけ長くなっていた2019年に関しては、リーグ全体の本塁打が増加したことに加え、ホールド数の増加にも目を向けてみたい。合計754個と2018年以前に比べて100個以上も増えており、それだけ各球団の投手交代が多かったということになる。投手交代には投球練習をはじめとした数分間のインターバルが伴うことを考えれば、投手分業の急激な進行が、平均試合時間の増加にも影響したと考えるのが自然だろう。
ただ、同じく試合時間がやや長かった2013年と2014年に関しては、他の年に比べて大きな差が見られた箇所は見受けられなかった。単純な数字以外の面では、各チームの打撃成績が向上したことや、3時間半ルールの撤廃といった過去2年間と比較しての反動といった理由が考えられるだろうか。2020年シーズンにおいても、今後無観客試合が終了して再びスタジアムにファンが戻ってきた際に、どのような変化が訪れるのかが興味深いところだ。
プロ野球の試合時間はさまざまな理由によって増減してきたが、そんななかでも、無観客で行われている今季の試合時間は、これまで以上に多くの限定的な要因が絡んでいることもあり、近年では特異といえるレベルで短くなっていると言える。
1日でも早くファンが球場に戻り、大歓声の中で選手がプレーする姿が再び見られることを願いたいところだが、無観客試合という未曽有の事態は、グラウンドの雰囲気のみならず、試合時間をはじめとした試合の内容自体にも、少なからず影響を及ぼしていることがうかがえる。
そして、無観客で行われる試合と、ファンを球場に入れて行われる試合の双方が、同一のシーズンにおいて両方行われる可能性があることは、比較を行ううえでは非常に興味深い研究材料となりうる。観客動員が解禁された後にどのような変化が生じるのかも含めて、その前後における違いを注視していく価値は大いにありそうだ。
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June 30, 2020 at 11:01AM
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