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衝撃の549ドル、日本版8.4万円。新型「Surface Laptop Go」と「Pro X」に秘めたマイクロソフトの世界戦略 - Business Insider Japan

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普及向けのGoシリーズ初のクラムシェル型マシン「Surface Laptop Go」。米国価格549ドルからと戦略的。ただし、日本版はオフィスが付属するなどの関係で8万4480円から。

出典:マイクロソフト

10月1日早朝(アメリカ太平洋時間)、マイクロソフトはPC「Surface」シリーズの新製品を発表した。例年同社はこの時期に新モデルを発表しており、2020年もその伝統を崩さなかった。

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Surfaceシリーズフルラインナップ。今年はこのうち「Surface Laptop Go」と「Surface Pro X」が新しくなった。

出典:マイクロソフト

2019年の同社は、デザイン変更・2つ折りなどの特別なモデルをアピールした。しかし、2020年にアピールするのは、そういう製品ではない。

目玉機種である「Surface Laptop Go」は、一見普通のノートPCだ。だが、それであるがゆえに「戦略商品」である。Surface Laptop Goが狙うものを、発表内容から紐解いてみよう。

空白だった「500ドル台の教育向け」を埋めにきた

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Surface Laptop Goは教育市場重視で、イメージでもティーンの利用を訴求している。

出典:マイクロソフト

Surfaceには複数のモデルがあるが、「Surface Laptop」はもっともスタンダードなノートPCである「クラムシェル型」の製品だ。これまでは、13.5インチと15インチの2モデルが用意され、「シンプルで美しいボディーに高解像度ディスプレイ」が特徴だ。アルミボディーということで、アップルのMacBook Airと比較して語られることが多い。

今回登場したSurface Laptop Goは、Surface Laptopの弱みであった「価格」の問題を改善するものだ。

現行の「Surface Laptop 3」(2019年秋発表)のアメリカでの販売価格は967ドルから(日本では13万9480円から)。ライバルであるMacBook Airに近い価格帯であり、圧倒的に高いわけではないが、拡大している教育ニーズに適応するには少々高価だった。

特に現在は、教育市場向けにPCのニーズが高まっている。Windows PC同士だけでなく、iPadやChromebookとの競争もある。そうした製品の主戦場は「300ドルから600ドル」のレンジだ。今回Surface Laptop Goが狙うのもこのゾーン。だからマイクロソフトが提供する写真でも教育を意識したカットが多くなっている。

「教育向けSurface Laptop」を仕切り直す

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Surface Laptop Go。重要は約1.11kgと十分モバイルもできる軽量さだ。

出典:マイクロソフト

実は元々、Surface Laptopは教育市場を意識して開発されたシリーズだった。だが、教育以外の市場で支持され、良い品質のノートPCであることを求めた結果、価格がどうしても上振れしてしまった。

2017年に最初のモデルが出たときから、「教育市場を意識している一方で、価格だけは似つかわしくない」との声は大きかった。結局、2018年、2019年と刷新されていく中で、教育色は薄まっていったように思う。

一方で、マイクロソフトは教育市場向けに、タブレット型の「Surface Go」シリーズを販売している。現行製品の「Surface Go 2」は399.99ドルから(日本では6万5780円から)と、単体での価格はかなり安い。しかし一方でキーボードなどは別売りで、まとめると結局500ドル程度の価格になってしまう。

また、使っているCPUの性能も低い。Webやオフィスソフトを「普通に使う」には不満がないだろうが、性能に余裕があるわけでもない。

一般的なノートPCを求める場合には高くなり、低価格なものを求めるとSurface Go 2になる。それが、これまでのSurfaceシリーズにとって「ラインナップの隙間」と言えるものだった。

そこへきて、Surface Laptop Goの価格は549ドルから。Surface Laptop 3よりも400ドル以上安く、Surface Go 2より150ドル高いだけだ。価格的には見事に「隙間を埋めてきた」格好だ。

ただし、日本版は、Office Home and Business 2019が付属するなどの関係から、価格が高くなり8万4480円から。本来の位置付けがブレて感じられるのは残念だ。

CPUやマイクは妥協せず、バランスを取って価格引き下げ

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Surface Laptop Goの日本版価格。オフィス「なし」版があれば、本来の位置付けを明確にできたところだが、オフィス付属を求める日本市場の特性ゆえの価格設定だ。

出典:マイクロソフト

Surface Laptop Goは一見して、Surface Laptopの「高級感があってシンプル」という美点を引き継いでいるように見える。

とはいえ、価格を下げつつSurface Goシリーズよりも上を行く、というバランスを保つのは簡単なことではない。そのため、なかなか面白い工夫の見える製品になっている。

まず、12.4インチディスプレイ搭載になって、サイズが一回り小さくなった。このディスプレイが「1536×1024ドット」で縦横比3対2、というちょっと変わったものになっている。ほとんどのノートPCは1920×1080ドットのパネルを使っているので、縦横ともにちょっと狭いのだ。

残念な点とも言えるのだが、それでも「縦横比3対2」を維持するのがマイクロソフトらしい。その方がPCには向いている、というのが同社の一貫した主張でもある。

また、Surface Laptopといえばアルミボディーという印象が強いが、Surface Laptop Goでは天板こそアルミであるものの、ボディはグラスファイバー配合のポリカーボネートになっている。

Windows Helloによる顔認証にも対応していない。最廉価モデルの場合、指紋認証もない。ただ、上位モデルでは電源ボタンが指紋認証を兼ねる。ここもコスト優先だ。

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上位モデルでは電源ボタンに指紋センサーが組み込まれている。

出典:マイクロソフト

メインメモリーは4GBもしくは8GB、ストレージは64GBが標準で、128GB・256GBと選択可能な点はSurface Go 2と同じだ。メモリーは8GB以上を標準としてほしいところなのだが、これはしょうがない。

一方で、CPUは性能が高い。

インテルの第10世代Core i5(プロセッサーナンバーはi5-1035G1)を採用している。これはクアッドコアのプロセッサーで、ライバルであるMacBook AirのCore i5搭載モデルに近い。グラフィック性能では劣るが、一般的な処理ではさほど差が出ない可能性が高い。Surface Go 2よりかなり高性能だ。

また、搭載しているWi-Fiも「Wi-Fi 6」、マイクも音質に定評があるデュアルマイクだ。この辺は、自宅から利用することが多くなった今は特に重要なポイントだ。

詳しくは実機を触らないとわからないが、少なくともスペックを見る限り、単に安くしたのではなく「今求められる性能は手堅く維持した」バランスといえる。マイクロソフトが、この市場でどう戦うかに苦慮した形跡が感じられて興味深い。

Surface Pro Xリニューアルの裏で「ARM版Windows」が進化

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あわせて発表になった、ARM版Windowsが動く戦略機種・新Surface Pro X。デザインは変更されていないが、「プラチナム」カラーの本体と、タイプカバーのカラーバリエーションが増加している。

出典:マイクロソフト

同時にマイクロソフトは、日本では年初に発売した「Surface Pro X」のリニューアルも発表した。名前やデザインは大きく変えないという、まるでアップルを思わせる製品ラインナップ変更だ。

サイズなどに一切変更はないが、ブラック1色だったラインナップに「プラチナム」カラーが追加となった。

Surface Pro Xは、プロセッサーにインテルやAMDの「x86系」ではなく「ARM系」を使っている。プロセッサーはクアルコムと共同開発した「Micorosoft SQ」。クアルコムのSnapdragon 8cxシリーズのカスタマイズ版だ。今回、既存の「SQ1」とともに、上位モデルでは性能が向上した「SQ2」が使われる。

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Surface Pro X。「SQ2」搭載モデルが、最新チップを搭載したモデルになる。ARM版とはいえ、価格は20万円超で決して「安価な入門機」ではない。

出典:マイクロソフト

しかし、重要なのはそこではない。

今回、ハードウエアには大きな変更が加わっていないと思われるのに、バッテリー動作時間は13時間から15時間に伸びている。理由は、WindowsのARMへの最適化が行われたためだ。

実働環境でどれだけ伸びるかは難しいところだが、それだけ「ソフトの改善の余地が大きいプラットフォーム」ということなのは間違いない。

そして、より大きなアナウンスが、「ARMでのx64エミュレーションサポート計画の発表」だ。

マイクロソフトのWindows+Device担当チーフ・プロダクト・オフィサーのパノス・パネイ氏は、Surface発表の前日(現地時間9月30日)に公式ブログを更新し、その中で「ARMでのx64エミュレーションのサポートを、11月公開のWindows Insider Program(開発テスト版)より開始する」と発表した。

ARM版のWindowsは一般的なWindows向けソフト(x86系CPU用のソフト)をエミュレーションで動かせるが、従来は「32ビット版のソフト」だけが対象だった。そのため、アドビのソフト群を含む、多くの最新のソフトが使えなかった。

実際に使えるようになるのはまだ先の話になるようだが、このアップデートはSurface Pro Xだけにとどまらず、「ARMを使ったWindows PC全体の可能性」に広がる大きなものになる。

Macでは一足先に「x86からARMへ」の動きがあったが、Windowsでもいよいよ「x86かARMか」という戦いが本格化する可能性がある。

(文・西田宗千佳

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