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野口茂樹 1試合16奪三振/2001・5・24 - 日刊スポーツ

19年前の2001年5月24日、中日野口茂樹投手が1試合16奪三振のセ・リーグタイ記録をマークした。日本記録はオリックス野田の19奪三振だが、野口らの16奪三振はセの記録として現在まで残る。同投手は愛媛・丹原高から92年ドラフト3位で入団。99年に19勝を挙げリーグMVP。この年は187三振を奪いリーグ最多奪三振のタイトルを取った。

【復刻記事】

バットに当たってもゴロにしかならない、圧巻の奪三振ショーだった。中日の左腕エース、野口茂樹投手(27)がセ・リーグ最多タイ16奪三振の快投を演じた。勝負球のスライダーがさえわたり、阪神打線から4連続を含む三振の山を築いた。許した安打も内野安打1本。三振かゴロだけに仕留める1安打完封劇で、チームの連敗を3で止めた。

「中村さんのリード通り投げられたのが良かった。いかにリードがすごいか、ですよ」。野口は偉業を達成したこの日もお決まりのフレーズだった。8回、カウント2-2からのクロスファイアに阪神八木はピクリとも動けない。この試合16個目の三振は金田正一、江夏豊らに並ぶ史上8人目のセ・リーグタイ記録だ。「全然知りませんでした。何も聞いてませんでした」。珍しくびっくりしたような表情で振り返った。

「オオッー」。城下町金沢で繰り広げられた奪三振ショーに、最初は喝さいを送っていた北陸のファンもいつしか驚嘆のため息を漏らしていた。野口を史上8人目の男たらしめたのは宝刀スライダーだった。「何がよかった? スライダーじゃないですか。ほとんどスライダーだったと思います」。その言葉通り、16奪三振のうち実に13個がスライダー。空振り三振は14個だった。打者が打ちにいっても、その予想を球のキレが上回る。正真正銘の決め球だった。外野への打球はゼロ、内野にさえ飛球は上がらなかった。キレに加え、低めへの制球も抜群だった。

今季は開幕から、直球が走った。ナゴヤドームでは140キロ台後半を計測する速球で押すスタイルが定着しつつあった。しかし、前回登板の17日横浜戦では5回2/3を6失点KO。三振も5個のうち3個が直球だった。この屈辱に「前回は悪かった。スライダーでストライクが取れませんでしたからね」。その後はブルペンで野手にバッターボックスに立ってもらうなど工夫し、決め球に磨きをかけた。ここ2回、中5日で投げていたが、今回は中6日でこの日に備えていた。5回2死から矢野に二塁内野安打でパーフェクトの夢を断たれたが、1安打完封。試合後は「この間悪かったのを帳消しにできた」。記録でも、名誉でもない。ただ自分の意地のためにスライダーを投げ込み続けた。

今季3度目の完封でリーグ単独トップの6勝目。防御率(1・48)奪三振(74)もトップキープ。だが、そんな勲章とは比べものにならない大きな投手としての「格」を手に入れた。

◆阪神浜中(3三振)「前回の対戦(5日)と比べて、スライダーが決まっていた」

◆阪神今岡(三振なしも4打席凡退)「どっちでも一緒ですよ。相手の考え方と逆、逆になってしまった。もともといい投手だから」

◆阪神広沢(2三振)「何を言っても言い訳になる」

◆阪神クルーズ(3三振)「リーグを代表する左投手なんだってな。米国でもスライダーのいい投手はいるけど、(今日は)たくさん三振してしまったな」

◆阪神ペレス(2三振)「アイツはいったい何歳なんだ。何年プレーしてるんだ。そんなに若いヤツには見えない。スライダーがすごいんだ。次はやる」

◆阪神矢野(5回に唯一のヒット)「何を喜べばいいんですか。勝たないと意味がない。野口? 確かによかったけど」

◆阪神塩谷(5回にファウルで粘って四球で出塁)「(野口は)全部よかった。粘った打席? 何も考えてなかった」

◆阪神赤星(三振せず)「僕はそんなに今までより、いいとは思わなかった。そんなに三振する球かな」

◆阪神カツノリ(8回に代打出場もスライダーに三振)「コントロールがよかったし、ずっといいところに投げてきた」

◆阪神八木(8回に代打出場も見逃し三振)「あの内角ストレートは振らないと」

◆阪神野村監督 「リーグ最多奪三振? そうらしいな。お恥ずかしいことで…。一流投手になると、うちの打線はこんなもの。今の打撃能力では難しい」

<野口、こんな人>

野口は決して大口をたたかない。好物のすしも、好きなネタはウニでもトロでもなく「ひかりもの」。最近ようやくアワビが食べられるようになったという。

ただ、今年は少し違うところが出てきていた。1億円プレーヤーとなった今も選手寮で暮らしているが、登板日以外などに若手投手とテレビでナイター中継を観戦しながら解説することがあるという。また、完封して帰った夜、ある若い投手から「(ヒーローインタビューで渡される)そのぬいぐるみくださいよ」とねだられると「欲しかったら、おまえも自分の力で取ってこい」。プロの先輩としての自覚を、野口なりに伝えようとしている。

◆データセンター 野口の1試合16奪三振は、1994年桑田(巨人)以来、7年ぶり8人目のセ・リーグタイ記録。プロ野球記録は95年野田(オリックス)の19奪三振で、17三振以上奪った3人(野田が2度)はいずれも右投手。左投手では67年金田(巨人)68年江夏(阪神)80年木田(日本ハム)93年今中(中日)と並ぶ最多記録だ。野口が許した安打は5回矢野の内野安打だけ。野口は96年に無安打試合を達成しており、内野安打1本で2度目のノーヒットをフイにしたのは86年加藤初(巨人)以来になる。また、1安打以下に抑えて16三振も奪ったのは、完全試合の68年外木場(広島)に次いで2人目。

※記録、表記などは当時のもの

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