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今季プロ野球は120試合 はたして記録に“注釈”は必要か - ニフティニュース

 今年のプロ野球は6月19日に開幕し、120試合を行なう予定になった。昨季より23試合減になるため、記録の扱い方が注目される中、5月26日配信の日刊スポーツの記事に、日本野球機構(NPB)井原事務局長の〈そこまでまだ話していないが、注釈付きで記録に残すのではないでしょうか〉というコメントが掲載された。

 ただ、プロ野球の歴史を辿れば、今季を“注釈付き”で扱う必要はないように思える。1950年の2リーグ分裂直後、試合数は年によってバラツキがあった。それどころか、セ・リーグとパ・リーグで異なるだけでなく、同じリーグでもチームによって違うことすらあったのだ。

 たとえば、1950年のパは7球団で120試合制だった。一方のセは8球団で巨人、大阪、大洋140試合、国鉄、広島138試合、松竹、中日137試合、西日本136試合。日本ワールドシリーズ(現・日本シリーズ)開幕までに全日程を消化できなかったため、総計7試合が打ち切られ、最大4試合も差があった。

 これだけでも驚くが、翌1951年はさらに格差が生まれる。セの最多は大阪の116試合で、最低は広島99試合。パの最多は毎日の110試合、最低は阪急の96試合。読売新聞社招待の日米野球の日程に合わせ、パは62試合、セは34試合が打ち切られた。

 試合数が年やリーグによって異なるのに、同等に記録を扱うことについて疑問視する声は当時から挙がっていた。海の向こうの大リーグでは、1961年にロジャー・マリスが61本(162試合制)を放ち、1927年のベーブ・ルース(154試合制)の60本を抜いたことで、シーズン最多本塁打について議論になった。結果的に、コミッショナーは試合数を考慮し、両者を記録保持者として裁定した。パ・リーグの公式記録員を務め、1961年から『週刊ベースボール』で『記録の手帖』を連載していた千葉功氏は、この例を挙げた上で、こう書いている。

〈日本の現状は、そんな配慮など、どこにも見当たらない。試合数の増加をさっそく“新記録”の樹立に結びつけてしまう無神経さだが、考えてみればそれも無理ない話である。そんな配慮が入り込む余地がないほど、日本のプロ野球の試合数は変わってばかりいた〉(1963年3月11日号)

 この時点、つまり2リーグ分裂以降の13年間で、セパが試合数や引き分けの扱い方など同一条件でペナントレースを戦ったのは、わずか2回しかなかった。

 紆余曲折を経て、1969年から両リーグとも130試合制で落ち着いた。1997年からは135試合制になり、交流戦開始の2005年は146試合制に。2015年から昨年までは143試合制だった。この間も、多少の増減や延長15回引き分けの場合は再試合などのルールも存在した。

 それでも、プロ野球の記録は1950年も2019年も同等に扱われてきた。昨年、新人最多安打が話題になった。近本光司(阪神)が159安打を放ち、1958年の長嶋茂雄(巨人)の153安打を抜き、セ・リーグの新記録を樹立した。ただ、近本は143試合制、長嶋は130試合制と実に13試合もの差がある。日本記録は、1956年の佐々木信也(高橋ユニオンズ)の180安打である。この年のパ・リーグは8球団制であり、154試合を行なっている。試合数が増加しない限り、今後も佐々木のヒット数は抜けないだろう。

 120試合制になる今季、突如として“注釈”の話題が出てきた理由の1つに、高打率が予想されることが挙げられる。NPBのシーズン打率の順位を見てみよう(順位、名前、所属、打率、チーム試合数)

【1位】ランディ・バース(阪神):3割8分9厘、1986年、130試合(出場126)
【2位】イチロー(オリックス):3割8分7厘、2000年、135試合(出場105)
【3位】イチロー(オリックス):3割8分5厘、1994年、130試合(出場130)
【4位】張本勲(東映):3割8分3厘4毛 1970年、130試合(出場125)
【5位】大下弘(東急):3割8分3厘1毛、1951年、102試合(出場89)

 イチローはシーズン210安打の1994年よりも、日本最終年で153安打の2000年のほうが打率は高い。ただし、1994年はフル出場で616打席に立ったが、2000年は8月27日にケガをしたため、105試合出場で459打席に留まっている。

 今年、もし120試合フル出場で、イチローの打率を超える選手が出現し、パ・リーグ記録を作った場合、“注釈”を付けたら違和感が生じるだろう。

 5位の大下は、前述の1951年の記録である。同じリーグなのに、チームによって試合数が異なった変則年にもかかわらず、19年にわたって“シーズン最高打率”の地位を保っていたことも忘れてはならない。

 このように試合数が増えれば安打、本塁打、打点など“足し算の項目”が増えるのは当然であり、試合数が減れば“割り算の項目”である打率は高くなりがちだ。

 将来的に、NPBは“記録”に対して、試合数の増減やボールの質に左右されない何らかの基準を作るべきだと感じる。言い換えれば、120試合制の今季に“注釈”を付けるなら、全てを見直す必要がある。そうなれば、今までのプロ野球の記録の価値観は一変することになるが、今の段階で現実的な話ではないだろう。

 過去に120試合以下で行なわれたシーズンも他の年と同等に扱われていることを考えれば、少なくとも今季の記録に“注釈”を付ける必要はない。

◆文/岡野誠:ライター。著書に『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。6月7日、元CHA-CHA木野正人と配信イベント〈『ザ・ベストテン』と昭和ポップスの世界〉を開催(詳細はロフトプラスワンWESTのホームページにて)。

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