今年の夏にドイツと米国でサッカーリーグが開幕するとき、そこに観客はいない。無観客になることでホームチームのアドヴァンテージや、さらには選手を突き動かす感情も失われるかもしれない。
TEXT BY ERIC NIILER
TRANSLATION BY YUMI MURAMATSU
米国の一部地域のヘアサロンやコーヒーショップと同じように、プロスポーツリーグの一部で再開の動きが見られている。とはいえ、予期しなかった変化も生じている。無観客試合が実施されるのだ。
ドイツのサッカーリーグ「ブンデスリーガ」では、5月16日から無観客で試合が開催されている。米国のメジャーリーグサッカーはこのほど、6月に全26チームをフロリダ州オーランドに移転させ、「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」にあるESPNワイド・ワールド・オブ・スポーツ・コンプレックスで試合を開催する計画を明らかにした。試合は無観客で行われ、テレビ放映される予定だ。
ドイツのブンデスリーガでは16日の開幕に向けた準備として、各チームに新型コロナウイルス感染症の集中的な検査が実施され、感染予防措置としてハイタッチ、円陣、ゴール後のパフォーマンスが禁止された。しかし、選手たちは普段と同じように身体をぶつけあってボールを取り合うのだろうか? 審判はいつものように選手のプレイを近くで確認し、ルール違反をした選手に口頭で注意するのだろうか?
「初めての状況で、関与する全員にとってまったく新しいものです」と、ドイツのケルンを中心に活動するジャーナリストのアレックス・フォイヤーヘルトは言う。彼は審判員トレーナーとコーチも務め、ポッドキャスト「Rules of the Game」を配信している。「選手と審判がともに不安を抱き、心理的に抑圧されていると感じるでしょうね。無観客だからという理由だけでなく、衛生的な規制も原因になっているのです。おそらく全員がさらなる制約を受けることになるでしょう」
過去の無観客試合から見えてきたこと
これまでプロスポーツの試合が、シーズンを通してまったくの無観客で開催されたことはない。このためスポーツの研究者や、選手の心理状態がパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを研究する人たちにとって、今年の夏は興味深いものになる。
過去に無観客で試合が実施された数少ない事例では、審判から出されるペナルティの数が少なくなり、ホームチームのアドヴァンテージも少なくなったことが判明している。また研究者らは長年にわたり、バスケットボール、サッカー、野球におけるホームチームのアドヴァンテージを立証してきた。
こうした結果は主に、アウェイのチームが移動の疲れや不慣れなフィールドでのプレイ、異なるロッカールームの使用による不安への対応を求められることに起因する。また、ファンの歓声が審判に及ぼす影響に対処しなければならないことも一因だ。これに付随して、アウェイのチームはファウルが多くなる傾向がある。
ストックホルム大学の経済学教授のミカエル・プリクスは、イタリアで2007年に開催されたサッカーの無観客試合21ゲームについて、このほど調査を実施した。シチリア島で対戦チームのサポーター同士が暴動を起こして警察官が死亡した事件のあと、ファンの観戦が禁止されたときのことだ。
その結果、プリクスはブーイングがないことで審判に余裕が生まれることを発見した。ジャーナル「Economics Letters」に掲載されたプリクスの研究によると、審判は両チームに同数のファウルを与えたという。
「これは自然実験でした」とプリクスは語る。「ファウル、イエローカード、さらにはレッドカードに影響が及んだことを発見しました。そこでわたしたちは、選手よりもむしろ審判に影響が及んだと結論づけたのです」
観客の存在が審判に及ぼす影響
ところが、ファンが観戦していると、審判が中立を保つのは難しくなる。満員のスタジアムで開催されたイングランドとドイツのサッカーリーグの試合に関する別の研究では、審判が潜在意識下でホームチームにバイアスをかけていることが判明している。
ランカスター大学のロバート・シモンズらは、イングランドのプレミアリーグとドイツのブンデスリーガで01~07年の6シーズンにわたり、審判がホームチームのアドヴァンテージに及ぼした影響について詳細に分析した。「Journal of the Royal Statistical Society」に掲載されたシモンズらの研究によると、審判がアウェイのチームに対してホームチームより多くのイエローカードとレッドカードを出したことが判明している。
異なる質のチームについて研究者が調査した場合でさえも、弱小チームか人気チームかに関係なく、この結果は当てはまった。また、ドイツの一部のスタジアムではフィールドと観客席が陸上用のトラックで隔てられているが、審判がアウェイのチームに対して、トラックで隔てられていない場合よりも少ないファウルを出したことも明らかになっている。
シモンズは、ブンデスリーガで5月16日に開催されたドルトムント(ホーム)対シャルケ(アウェイ)の試合に注目していた。通常なら、ドルトムントの堂々たるサッカースタジアムは約81,000人の沸き立つ観衆で埋まり、その観客動員数は欧州随一だ。
ところが、試合当日の朝になってもスタジアムは空だった。数人のコーチと技術者しかおらず、テレビのカメラマンがサイドラインをあちこち移動するだけである。シモンズは試合前に、「激しさは減るでしょう。作為が働くことは若干少なくなり、運に左右されることは少し増えるかもしれません」と語っている。「選手がこれにどう反応するのかわかりません。2カ月間の休暇から復帰したところで、身体も少し鈍っています」
審判のプレッシャー
たとえ観客がいなくても、プロスポーツにとって勝敗は重要だ。世界中のファンや選手、ヘッドコーチは、審判についてよく不満を言っている。ルールを一貫して適用していない、ひいきのチームにバイアスをかけている、といったことだ。
重大な局面での審判の判断は、極めて重要になりうる。チームがチャンピオンシップで勝利を収めて賞金額の高い欧州の大会への参加資格を得たり、下部リーグへの降格を回避したりする見込みがある際には特にだ。米国のサッカーは欧州ほど大規模ではないが、それでもトップチームは賞金とテレビの契約を巡って競い合っている。
ところが、あるサッカーの審判員は、観衆の審判に対する影響力に関する研究に冷や水を浴びせている。バイアスをかけるような審判や、ホームゲームで地元の人気チームにペナルティを出すことへのプレッシャーを管理できないような審判は、大規模なリーグで審判を務めることができないというのだ。
「最もいい仕事を割り当てられるように、審判はまさに競い合っているのです」と、2000年からメジャーリーグサッカーで審判を務めるリカルド・サラザールは言う。「フィールドにいるときの半分くらいは、ほとんど観客の声援は聞こえません。審判ならこうした環境に適応し、やるべき仕事に集中すべきです。それに大声で悪態をつかれるわけですから、鈍感にならなければなりません。それでも影響されてしまうなら、就くべき職業を間違えているのでしょうね」
新たな静寂の試合の影響
歓声を上げる何千人ものサッカーファンを前にホイッスルを吹く代わりに、サラザールと同僚たちは6月にフロリダに向かい、ユースのサッカートーナメントでよく使用されるトレーニングフィールドで審判を務める予定だ。サラザールは過去にもほぼ無観客のスタジアムを経験している。メジャーリーグサッカーで11年に実施されたニューイングランド・レヴォリューションのホームゲームだ。
このとき、ほとんどの地元ファンは、アイスホッケーのプレイオフトーナメント「スタンレーカップ」の最終戦を自宅で観戦していた(ボストン・ブルーインズを応援していた)。声援がなかったことは「少し気持ち悪かった」という。
サラザールはこれからやってくる新たな静寂の試合について、少なくとも最初は全員に影響を及ぼすだろうと予想している。「静寂の雰囲気は体験全体に影響を及ぼします。でも、それもいずれなくなるでしょうね」
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